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精神分裂病の家族に対する心理教育入門講座

(第3回研究集会より)


精神分裂病の家族に対する心理教育入門講座:司会者からの若干の感想

司会 白石 弘巳(東京都精神医学総合研究所)

 この入門講座は、精神疾患、特に精神分裂病の患者さんの家族に対する心理教育的アプローチを実践することを考えておられる方、始めてまだあまり間がない方を対象として行いました。ここでは、抄録の一部を再掲し、加えて司会としての感想を少し述べておきたいと思います。

 心理教育については、二つの考え方があると思います。一つは、精神保健医療に従事し、患者さんや家族の方と接している人ならば誰でも、体系的とは行かなくとも日常的指導の中で心理教育を実施しているのであるから改めて学ぶことはあまりない、というものです。他の一つは、「心理教育」は特別の方法であり、その理念や目的に忠実に行わなくてはならない、というものです。

その答えとはなりませんが、私は心理教育を考えるときに以下の二つにこだわりたいと思います。第一は、治療的効果を上げるものでなくてはならない、ということです。わざわざ心理教育と銘打ち、時間をかけて行うのですから、何か治療に関係した効果が得られるはずです。それに関して無自覚ではいられません。第二は、参加家族とのコミュニケーションです。私たちが言いたいことが家族に本当に分かってもらえているのか、について特別の関心を向けなければならないと思います。そして、それ以上に、私たちが家族の意見、希望、立場などを分かっているのか、について常に我が身を振り返らなければならないと思います。私は、このような点を念頭に置いて、講師の先生やご家族のお話に耳を傾けるよう心がけました。

実際に講座を行って、講師や家族の方々のご尽力のおかげで、限られた時間の中でさまざまの情報をお伝えできたと感じています。それぞれの講師のお話の内容は別に紹介されると思いますので割愛いたします。今回初めて試みたご家族の方々との座談では、ご家族から「適切な対応をしてくれる病院が少なく探すのに苦労した」「受診当初だけでなく、経過が長くなってきたときにも情報開示や適切な心のケアを」「身体的なケアもなおざりにしないで」「副作用のない薬を早く開発してほしい」など精神医療に対する厳しいけれど当然の注文の他、「家族教室や家族会が大変役に立った。全国に広げてほしい」というエールも送っていただきました。家族の方々は、専門家が「どきり」とする発言をなさることが少なくありませんが、こうした「どきり」をしっかり受け止めて自らを省みるチャンスとすることが相互交流の本質であると思います。

質疑の時間では、時間が少ない中で「8人の同じような境遇の家族グループを得ることが困難」「患者より家族が先に情報を得ることのギャップの問題」「途中で家族教室に参加しなくなる人の問題」「家族だけに負担を負わせるという発想ではなく、みんなで支えることこそが大切ではないか」などの質問がでました。司会としては、同じ質問に対し3人の講師からそれぞれ回答を頂戴しました。正解が一つではないこと、自分たちの目的に応じた方法論を創造することが重要であることを感じていただけたらと期待しました。

心理教育の「入門者」は、よい心理教育ができない人ではないと思います。むしろ先入観にとらわれず、患者さんや家族の支援を真剣に考え、その方法について自分たちで試行錯誤を続けることから「自分たちのやりたい」「ユニークな」プログラムが生まれて来たときに、心理教育の発展が保障されるのではないでしょうか? そんなことを考え、今回参加された方々にネットワークの会員になり、引き続き一緒に研鑽を積んで行きましょうと呼びかけてまとめとしました。

この入門講座が、はっきりとした目的意識を持ちつつも、背伸びせず、のびのびと心理教育を行うために必要なエッセンスを提供できるよう、司会として及ばずながら努力したいと思いますのでよろしくお願いいたします。

なお、以下のように講演の順序が変更になりましたのでご案内致します。時間はおおよその目安です。進行につきまして講師、参加者のみなさまのご協力をお願いいたします。

13:10〜13:15 本日の進行についての説明(白石)

13:15〜13:40 「プログラムの作り方」心理教育総論(江畑)

13:40〜14:05 「EEと家族評価法について」(上原)

14:05 〜14:30 家族が心理教育に望むこと(家族の方々との座談、司会白石)

14:30〜14:40 休憩

14:40〜15:30 グループ運営の方法(池淵、山口)

15:30 〜16:00 質疑


1)心理教育総論「プログラムのつくり方」

          
江畑敬介(東京都立中部総合精神保健福祉センター)

1.はじめに

 1950〜1960年代には、精神分裂病の家族研究が盛んに行われた。その一部を紹介すると、次のようなものがある。

1)フロム・ライヒマンの分裂病をつくる親説

 母親あるいは父親の性格、思考形式、不安の持ち方などが分裂病の子供をつくり上げるのに少なからぬ役割を果たす。母親は、病気となる子供に対して支配的、介入的であり、自分と子供との自我境界をつくることができない。したがって子供の伝達する要求や願望の真の意味を把握できない。また母親の言語的表現と非言語的表現の間には矛盾が見られる。父親は弱く、受動的で、病者との関係は希薄であり、時に子供に対しては拒否的である。

2)ボーエンの多世代間伝達説

 夫婦間の情緒的離婚状態のために母子関係は共生的結合となり、その子供の心理的発達が阻害される。この未成熟な子供がやはり未成熟な相手と結婚し、その夫婦関係はやはり情緒的に未熟となり、そのために母子関係はさらに濃密な共生的となり、その子供の心理的発達はさらに阻害される。三世代以上にわたって、この繰り返しが起こることによって分裂病の子供が生まれるに至る。

3)ベイトソンの二重拘束説

 親が子供に対して同時に相矛盾する二つのメッセージが表現する。それを受け取った子供はその矛盾を指摘することができず、しかも何らかの応答をしなければならない状態。たとえば子供が愛情豊かな母親に示すような反応を母親に示すと、母親はそれを受け入れることができず不安になり冷淡になる。しかしその母親は、子供へのこの不安感や敵意を自ら受け入れることができず、そのことを否認するような見え透いた可愛がり方をする。子供がそれに応えないと子供から離れる。

4)ウィンの偽相互性説

 家族関係の中で家族成員が相互に自分の欲求と家族の欲求を満たしてバランスがとれている状態が相互性のある家族と言える。分裂病をもつ家族では、偽相互性が見られる。それは家族関係は表面的にはバランスがとれているように見えるが、家族成員個人の欲求やアイデンテイテイを犠牲にして成り立っている。

 以上のようなさまざまな家族因説が風靡した。しかしこれらの家族因説に基づく治療法は、いずれも成果を見ることができなかった。しかもこれらの方法は、家族を精神分裂病の治療の協力者として見るよりも、病気の原因として見る方に視点が傾きがちであり、その意味で精神分裂病の患者を身内にもつ家族の苦悩と労苦に対して十分に配慮していたとは言い難かった。

 しかし1962年にイギリスのブラウンらによって始められた家族の表出感情(EE)に関する実証的研究は、精神分裂病の再発と家族要因との関係を明らかにした。イギリスのボーンによれば、精神分裂病の9カ月後の再発率は低EE家族では13%であるのに対して、高EE家族では51%であった。ここでいう高EE家族とは、攻撃性、非難がましさ、過干渉などの表出感情が高い家族のことである。

 我が国でも伊藤によれば、9カ月後の再発率は低EEでは8%であるのに対して、高EE家族では46%であった。すなわちイギリスにおいても我が国においても、攻撃性、非難がましさ、過干渉などの表出感情を示す家族においては精神分裂病の再発率が高いことが明らかになった。

2.高EEの原因

 精神分裂病の家族が高いEEを示す原因として、大島は次のような仮説を挙げている。1)高EEは、慢性疾患患者を身内に抱えたことに伴う一般的な情緒反応で、一種の対処スタイルである。2)高EEは、病気や症状、治療法、社会資源・対処資源に対する知識・情報の不足によってもたらされる。3)高EEは、不慣れな対処方法、不適切な対処技術の結果もたらされる。4)高EEは、家族資源の貧困によってもたらされる。5)高EEは、家族の主観的な生活負担のバロメーターである。

 このように精神分裂病患者を抱えた家族は、心理的にも、社会的にも、経済的にも多くの負担を負っていると考えられる。家族に対するこの負担を軽減することができるならば、精神分裂病患者に負荷されるEEの影響もまた軽減されるであろう。すなわち精神分裂病の再発防止のために、家族が負っている多重の負担を少しでも軽減することによって、患者に対する家族からのストレッサーを低下させるようにすることが必要である。

 このような目的から、近年、欧米で精神分裂病のリハビリテーション・プログラムの一つとして心理教育的家族療法が発展してきた。

3.海外諸家の心理教育的家族療法の概要

1)アンダーソンらのプログラム

 プログラムの目的:

 (1)疾病についての理解を深めること

 (2)家族内のストレスを下げること

 (3)社会的ネットワークを強化すること

 (4)家族内のストレスを高めている持続的問題を減少させること

 対象:

  患者本人の参加しない数家族の集団

 方法:

  丸一日かけて生き残り技術ワークショップ(survival skills workshop)を行う。

  内容として、精神分裂病の疫学

        精神分裂病の症状

        精神分裂病の治療

        家族の対応方法

 フォローアップ:

  2週ごとに患者を含めた単家族より構成された家族セッション

 

2)マックファーレンらのプログラム

心理教育と複合家族療法を組み合わせた心理教育的複合家族療法

(psychoeducational multiple family therapy)である。

 {プログラムの目的}

(1)孤立の減少

  (2)社会的烙印と社会的重圧を主観的にも客観的にも軽減すること

  (3)家族間の感情的もつれを解き、EEを軽減する

  (4)コミュニケーションの拙劣さや逸脱を軽減し、心理社会的能力を向上させる

  (5)密かに依存性を助長するような交流パターンがあれば、それを矯正する

  (6)精神分裂病患者を抱えた家族の長期間のニーズにあわせた半永久的な社会的ネットワークをつくること

 {対象}

   患者本人を含めた数家族より構成されたグループ

 {方法}

  第一期:グループ形成

   この時期には、まず家族を評価し、家族との治療同盟を樹立する。さらに複合家族グループに参加  する予定の患者たちとのミーテイングを行い、彼らの間に親愛感やお互いに助け合う気持ちを養い、  複合家族グループに参加し、それに耐えられるように準備する。

  第二期:グループ凝集力の形成

   この時期は、治療目的を遂行するために最も重要な時期である。リーダーの目的は、心地よく支持  的で目的指向的で意味のあるグループを形成し、それによってその後に起こるよりストレスのある治  療的変化の過程に耐えられるグループにすることである。

  第三期:家族間の感情的もつれを解き、問題解決を図るこの時期には、治療者と家族よりも、家族間同志で問題解決を図るようにする。そのことを彼らはクロス・ペアレンテイング(cross parenting)と呼んでいる。それは、他の家族や患者に対して、自らの家族のように助言したり関与したりする体験を通して、逸脱したコミュニケーションを矯正することである。

  第四期:社会的ネットワークの形成   

 この時期には、リーダーの役割は少なくなり、家族はお互いに友人か隣人であるかのような関心をもちあるようになる。それによって家族間の関係は、それまでの治療的関係から現実の社会的ネットワークとなり、複合家族グループが終了後も助け合うようになる。

3)レフらのプログラム

{プログラムの目的}

   EE研究を基盤に、高EE家族に対してEEを低下させ、再発を防ぐことを目的としている。

  {方法}

   二つの技法からなる。

   技法1:患者本人を含めず、低EE家族と高EE家族の両方を含めて最大8人のグループをつくる。この家族グループに対して9カ月間2週間ごとに集まり、1回のセッションは1時間30分とし、そこで精神分裂病の原因、症状、経過、治療の講義を行うと共に、高EE家族が       低EE家族の対処技法を取り入れられるようにする。さらに多くの家族が感じている孤独       感を互いに分かち合うことによって、その感情が患者に向けられないようにする。

   技法2:患者本人を含めた高EEの家族に対して、家庭訪問して、精神分裂病の原因、症状、経過、治療の4回の講義を10分ずつ行い、その後は家族から質問のある限りを受ける。

4)ファルーンらのプログラム

  このプログラムは、行動療法的問題解決家族療法(behavioral problem-solving family management)と呼ばれている。このプログラムは次の4つの方法から構成される。

 (1)教育的ワークショップ

    これには2つのワークショップがある。

    A.デイケアへ入所した患者と家族を対象にして、4カ月間、毎週、1時間半のセッションを行う。

    B.患者宅において1時間半のセッションを6回行う。

   {ワークショップの内容}

    精神疾患を「生活上の問題」としてとらえる。

    ・抗精神病薬の効果、副作用、適応

    ・再発の初期徴候のとらえ方

    ・模倣、強化などの行動療法

    ・コミュニケーション訓練、など

 (2)複合家族グループにおけるコミュニケーション訓練

{対象}患者を含む3家族よりなる複合家族

   {方法}毎週1回、2時間のセッション

       前半1時間:3家族に共通の問題を扱う

       後半1時間:個別家族グループにおいて、その家族に固有の問題を扱う

   {技法}・建設的フィードバック

       ・賞賛などの陽性強化

       ・指導

       ・モデルつくり

       ・役割のリハーサル

       ・自宅での履修課題を与える、など

   

 (3)複合家族グループにおけるコミュニケーション訓練と問題解決技法の訓練

   {対象}患者を含む3〜4家族よりなる複合家族

   {方法}毎週2時間のセッションを9回行う

       前半1時間:教育的ワークショップ

       後半1時間:各家族に分かれて固有の問題を扱う

   {コミュニケーション訓練の技法}

    ・陽性感情を表し、陽性フィードバックを与える

    ・他の人に対して期待を表現し、ルールを設定するなどの要望をする

    ・他の人のニーズや感情を知るために積極的に耳を傾ける

    ・陰性感情あるいは怒りや不承認の感情を率直に表現する

   {問題解決技法の訓練}

    第一段階:生活上の問題を特定する

    第二段階:その問題に対する対処方法を数個つくりあげる

    第三段階:各対処方法によって得られる結果を評価する

    第四段階:それらの対処方法の中から、満足度が大きく妥当性が高いと思われる対処方法を選ぶ

    第五段階:その選ばれた対処方法を家族として、どのように実行するかを計画する

    第六段階:それを実行するために互いに協力する

    第七段階:選ばれた対処方法を実行したあとで、当初に特定した問題がどうなったかを検討する         

 (4)家庭訪問による問題解決技法の訓練

   このプログラムでは、患者自身が「専門家」としての役割をとることが期待される。

   最初の2回:教育的ワークショップ

→コミュニケーション訓練

   →問題解決技法の訓練

5)ゴールドステインらのプログラム

  このプログラムは、家族クライシス療法(crisis-oriented family therapy)と呼ばれている。

 {対象}

  急性分裂病エピソードのために1〜3週間の入院治療を行って退院したあとの患者を含めた単家族

 {方法}

   退院後、毎週1回を6週間

 {内容}

   (1)急性分裂病のエピソードから回復するには6カ月から1年かかるので、回復への現実的な期待を持つようにする

   (2)精神病について理解する

   (3)ストレスへの対処方法を習得する

     第一段階:患者を脅かせている最も危険なストレッサーを特定する

     第二段階:それらのストレッサーからのストレスを防止し、対処する戦術を見つける

     第三段階:その戦術を実行させ、その効果を判定し、さらにその戦術を向上させる

     第四段階:将来に予測されるストレスを防止し、それに対処する戦術を計画する

4.我が国における家族支援プログラムの現状

  以下では、精神障害者社会復帰促進センターでの調査から報告する。

1)家族支援プログラムの実施状況

  精神保健福祉センター(1944年)  実施 64.7%

 未実施 35.3%

  医療機関(1996年)        実施 34.1%

                    未実施 65.5%

 以下は、医療機関を対象とした調査の結果である。

2)プログラムの対象

  入院患者を対象としたプログラムが最も多く79.9%、次いで外来患者の61.8%、三番目にデイケア患者の40.2%であった。

3)プログラムの類型

  最も多いのは「毎月あういは隔月に定期的に開かれるもの」であるBタイプが53.7%であり、次に「年に1〜2回開催する家族向けの講演会」であるCタイプが44.0%である。「数回で1コースとなる毎回学習テーマの定まったもの」である。Aタイプは、先に紹介した海外での心理家族プログラムに近いものであるが、それは僅かに19.3%を占めるに過ぎなかった。

4)プログラムの実施日時

 Aタイプ「数回で1コースとなる毎回学習テーマの定まったもの」では、開催する曜日としては、土曜日が最も多く34%、次いで月〜木曜日の26%、その後に金曜日の20%である。時間帯は午後のみが圧倒的に多く62%を占め、午前もみが28%である。

 Bタイプ「毎月あるいは隔月に定期的に開かれるも」では、開催する曜日としてはやはり土曜日が最も多く33.2%を占め、次いで月〜木曜日の30.6%である。時間帯は、やはり午後のみが圧倒的に多く68.9%である。

 Cタイプ「年に1〜2回開催する家族向けの講演会」では、開催する曜日が不特定とするものが最も多く40.4%を占めていた。時間帯は、やはり午後のみが圧倒的に多く60.5%を占めていた。

5)プログラムの実施方法

 実施されているプログラムとしては、講義・講演が最も多く、次いでグループでの話し合い、ビデオでの学習、テキストの学習、などが多く実施されていた。その他に、家族SST、家族だけでの話し合い、集団療法、リラクセーション、ロールプレイ・心理劇などがありました。

 

5.おわりに

 家族によるプログラムの評価

  「とても良かった」とする人が約60%を占め、「まあ良かった」とする人が約30%を占めています。両方を合わせると、約90%の人が心理家族教育のプログラムに満足しています。

 実際に役立ったこと

  「悩んでいるのは自分だけではないと思うようになった」とする人が最も多く、次いで「援助者として必要な基本的知識を身につけた」が多く見られました。その他に、「患者本人への上手な対処方法を身につけた」、「患者本人のことをもう少し親身に考えようと思った」などが見られました。

 

                   参考文献

1)ぜんかれん保健福祉研究所モノグラフNo.17「地域における家族支援プログラム」、1997

2)ぜんかれん保健福祉研究所モノグラフNo.23「医療機関における家族支援プログラム」、1999


2) 心理教育の評価について 
  群馬大学神経精神科 上原 徹

1. 評価とは

 広い意味での評価は、アセスメント(assessment)と効果評価(evaluation)に分けられる。前者は問題探索的に行われる場合をいうことが多く、患者や家族を巡る心理生物学的要因や社会的要因も含む包括的評価を指す。後者は、比較的限定された標的に対する効果を判定することをいう。たとえば、再発率低下、というのは後者に当たるだろう。現状は、様々な仮説や証拠に基づき心理教育的アプローチを試行している段階にあり、患者や家族をめぐる多面的なassessmentが必要といえよう。その変化の検討をもとに、さらなる効果判定方法の選択(evaluation)や開発に結びつけていくことが我々に求められている。

2. 効果判定

心理教育的アプローチの効果判定は、どのような仮説に準拠しているのか、何を目的とした心理教育なのか、という2つの前提により決定される。これまでの心理教育、特に精神分裂病に対して行われてきた心理教育的家族介入は、EE概念やストレス脆弱性モデルを理論基盤として、再発の防止を主たる目的としていた。必然的にその効果判定には、EEを含めた家族関係性評価と心理社会的ストレスの変化に着目し、次に患者の症状、再発を含めた予後評価、これらに基づく再発率を評価基準として用いてきた。 

しかし、近年の心理教育的アプローチは、個々の患者や家族のニーズ、病態、状況に合わせ、様々な形態や方法論を包含、選択したり、組み合わせて行われるようになっている。従って、その効果判定もEE、家族関係性、患者の症状や再発だけではなく、患者や家族を取り巻く様々な要因を検討する段階に入っている。また、EEは精神分裂病に特異的な概念ではなく、様々な精神疾患や心身症、慢性疾患にも適応できる。症状や経過予後評価基準は、各病態や疾患によりおのずと異なってくる。家族のみを対象とした心理教育、たとえば家族教室形態の家族療法などでは、家族の側の変化も評価する必要がある。こうした場合、家族機能評価を用いるか、家族の心理的状態や負担感、社会的援助のあり方などを評価するのかは、行われているアプローチの内容や主旨により決定される。

3.評価の方法

具体的な評価の方法論として、客観評価尺度、面接、質問紙がある。評価尺度は観察者の客観的な評価によるものをいい、医師を含めた専門家スタッフが行う場合や家族が評価する場合があり、患者自身が評価する場合を自己記入式評価(質問紙)という。面接には構造化面接や半構造化面接があるが、いずれにせよ面接基準によりその施行方法が詳細に決められている。比較的用いることの多い自己記入式質問紙は、簡便さや被験者の主観を評価できるという利点があるが、社会的に望ましい方向で回答してしまったり(social desirability)、ある特定の症状や項目を他に比べて強く評価してしまうこと(complainative set)がある。一方客観評価尺度や面接基準は、より客観的で信頼性の高い結果が得られるが、その施行方法や閾値について十分理解することと、評価者によって評価結果が全く異なる、という問題を避けるために、評価者の一致率を高めるトレーニングが必要である。

4.評価のポイント

評価する内容としては、症状評価、援助(ソーシャルサポート)、疾病理解度、負担度(burden)、家族機能(EEを含めて)、家族内コミュニケーション、情緒状態(心理状態)、対処スキル(coping)、などがあげられる。「何のため、誰のための評価か?」という基本的問題を考慮した上で、心理教育の評価に関する8つのポイントを挙げてみたい。

(ホームページ上のスライド資料参照下さい)

3)家族が心理教育に望むこと

 ここでは、親として、配偶者として、あるいは兄弟姉妹として精神分裂病の患者さんに関わっていらっしゃる5名の家族の方に登場していただき、短い時間ではありますが、家族が心理教育に何を望むか、というテーマでご意見をうかがいます(司会 白石)。

4)グループ運営の方法:その1 さまざまな家族援助の方法

帝京大学 池淵恵美

*効果的な家族教育プログラムに共通する実施内容(Goldstein,1995)

・初期の段階から、家族を受容的な雰囲気の中で治療に巻き込む。

・情報提供(ストレス・脆弱性モデル、病院、予後、治療法、対処法)

・コミュニケーショントレーニング

・問題解決技能訓練

・危機介入

*グループの構成の仕方

・何を目的にするかによって違ってきます。大きく分けると、単一家族、家族のみのグループ、患者さんも含めた複合家族グループがあります。危機介入には単一家族が向いていますし、長期的なサポート体制をつくっていくには複数の家族グループが向いているというように、よい点が異なります。

・グループワークは8人前後がやりやすく、治療者は複数(二人以上)が原則です。

・1回あたり1〜2時間程度。頻度は家族や治療者の負担を考えると2週間に1回というのが現実には精一杯でしょうか(危機介入時は例外)。支援体制を兼ねる場合には1ヶ月に1回というのが一般的です。実施回数については5回は最低必要でしょうが、これも何を獲得目標にするかによります。

*グループワークの基本

 小グループでの集団精神療法や、戦略的な家族介入、講義中心の家族教室と比較して、いくつかの特徴があります。

・リーダーシップが明確で、支持的。

・(分裂病を対象とする場合)病気についての「医学モデル」を共通の知識基盤とする。

・まずは課題達成(たとえば「どう病気とつきあうか」)を目的とする。

・参加者間の相互交流を増やすための意図的な介入を行い、よいコミュニケーションモデルの提供、支持的な帰属集団の提供をめざす。

・参加者の自信を取り戻し、負担感を軽減し、病気とつきあっていく力を付けるところに目標が置かれる。

*情報提供のこつ

・これまでの資料を参考に、わかりやすいスライド、配布資料などを準備する。参考文献として、「心理教育実践マニュアル」「家族教室の進め方」(いずれも金剛出版)。

・参加者との相互交流を心がけるーはじめに病気についてのイメージや知識を聞く、あらかじめ聞きたいことや心配なことを聞きそれにそって話を進める、適宜・質疑応答を取り入れる、先輩家族からも意見をもらうなど。

・参加した家族についてある程度の情報を持っておき、個々人の状況にそって話を組み立てられるとよい。

・対象が「素人」でも、専門的な知識の正確な情報を。しかし話は分かりやすく。

・結局どこまで理解してもらえるか、何を情報として受け入れるのかは参加者にゆだねられる。そこに「情報提供」の良さと限界がある。

・いつ情報提供を行うかは、あらかじめワークショップをまとめてやる、何回かの連続講義にする、グループワークの冒頭で実施するなどいろいろのやり方がある。

*知識提供後のグループワークの具体的な進め方

・ジョイニング

・前回の振り返り、その日の課題設定

・問題解決法/SST/体験交流と感情の共有のいずれか。

 問題解決法は参加者の抵抗が比較的少なく、認知面の援助がしやすい、経験の少ない治療者や家族でもリーダーが可能などの利点があります。SSTは具体的な行動レベルでの援助がしやすい、批判的な感情などを取り扱いやすく、グループの雰囲気を肯定的なものにしやすいなどの利点があります。SSTで練習しておくと役に立つ行動として、気楽な会話のやり方、傾聴のこつ、上手な自己主張、他の家族の援助をあおぐ、感謝を伝えるなどがあります。初めての参加者があるときや、困難に直面して感情的に混乱している家族のためには、具体的な対応法の練習よりは、傾聴と感情の共有がよい場合があります。

・その日のまとめと、「宿題」の設定

・次回の約束

まとめ

家族への援助方法は、構成員や、用いる技法により得られる効果が異なる。

さらに、参加人数、実施頻度及び回数(数回から数十回まで幅が大きい)、実施時期(急性期か慢性期か)によっても、目的が異なる。

大切なのは、家族のニーズにそって適切な援助方法を選択できるということである。

実際的には、短期間の知識提供中心のプログラムと、長期間の対処技能・相互援助中心のプログラムを使い分けられるとよいのではないか。

4)グループ運営の方法 その2:グループワークの目的と工夫

山口 一(済生会鴻巣病院、日本大学精神神経科)

T はじめに

 我が国では、グループで心理教育・家族教室を行うことが一般的です。それにはさまざまな方法がありますが、いずれの形態においてもグループワークが大切な役割を果たします。ここでは、そうしたグループ運営に共通して大切な点をまずお話ししたいと思います。次に、対象やプログラムによる違いについて若干補足したいと思います。

U グループワークの目的

 以前の立場と違い、心理教育では、家族を治療の対象から、援助の対象として考えています。そうした立場から、家族がより正確な情報や対応を学ぶ場を提供することが一番大切です。そのために、グループワークでは、教示者、参加者を問わず、全員の「対話」を通じた、学び合う場を形作っていきます。

 また、グループワークを通じた家族の連帯感の育成が、第一の目的にも必要ですし、家族の傷ついた感情の回復や今後の希望のために必要です。

V グループ運営で大切なポイント

 Uに述べた目的を達成するために大切な点を5つにまとめてお話しします。

1 家族が話しやすい場にする

 スタッフは援助者であるという態度を明確にする、共感的態度で接する、家族の気持ちや発言を尊重する、などを通じて、家族が安心して本音で話ができる場を作ることが大切です(特に初回のセッション)。そのことがグループ活性化の第一歩です。

2 議論を活発にする

 議論がひとつの方向に偏ると、問題を掘り下げることができなくなります。教示者の立場を押しつけず、さまざまな視点を取り入れ、議論を活発にすることが、学びあいには大切です。

3 論点の整理・調整

 議論が活発になるのはよいことですが、散漫になると、学習に支障がでてきます。参加者全員が、病気の治療というひとつの目標にむけてまとまるように、テーマを絞ったり、すべての参加者に共通となるように論点を整理、調整していきます。

4 家族の問題解決能力を高める

 日々の患者への対応はひとつの正解があるものは少なく、その場その場でよりよい解決法を考えるしかありません。従って、さまざまな場面に応用できるように長期的に家族の問題解決能力を高めるよう工夫することが大切です。

5 客観的な目を育てる

 家族が感情的に巻き込まれていたり、対応がうまくいかないときには、ひとつの考え方に固執していることが多いものです。それを解消していくために、客観的なものの見方を養うことが大切です。

W 対象、プログラムによる違い

患者が急性期であるか慢性期であるか、プログラムを短期に集中して行うか1年以上継続して行うか、などにより、グループワークで何を重点におくかに若干の違いが出てくると思いますので、当日お話しします。



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